TOPIC冨永の活動、講演、講座、メディアへの寄稿、
メディア出演などをお知らせします。

UP DATE2024年04月13日 (土)

「第173回 福岡井口感性塾」にて冨永が講演致します。

4月18日19時より NPO法人ヒトの教育の会が開催する「第173回 福岡井口感性塾」に冨永が登壇致します。

冨永晃輝 Up to date 2024  

〜 心の動きが明らかになった時代に、人間はどのような価値観に到達すべきなのか?〜

と題した講和を行います。

自由エネルギー原理や構成主義的情動理論は、「脳は過去の経験と学習をもとに何をすべきか予測する臓器である」という単一の理解に収斂しつつあります。哲学者のヤコブ・ホーヴィ氏は、その慎重な論考を経た後に「私たちの心の非常に多様なこれらの側面を、一つの原理(自由エネルギー原理)のもとに統合することができるように見える」と結論づけました(2021 勁草書房「予測する心」)。理化学研究所脳神経科学研究センターの磯村拓哉氏らは、2022年1月に「どんな神経回路も自由エネルギー原理に従っている」と題したプレスリリースを発表しました。

このように、自由エネルギー原理は人間の認知・学習・意志・行動・感情・思考全般を説明する理論としての地位を確立しつつあります。

さて、こうした脳科学の急速な発達によって、俄に加速するのは「脳決定論」です。人間には自由意志と呼べるものはほとんどないのではないか?という疑念は、現代文明を根底から覆すほどスキャンダラスな問題提起となり、ユヴァル・ノア・ハラリマルクス・ガブリエルなどの世界の知的指導者は最大級の関心を寄せています。

現代の社会は、人間は自分の心を自分で動かすことができる=自由意志を持っているという前提で動いています。資本主義(消費者は自分で消費行動を決定することができる)も民主主義(有権者は自分で考えて投票行動ができる)も、人間の自由意志を前提としています。現代の価値観は、人間がその自由な意志によって「価値があると判断したものに価値がある」と考える「ヒューマニズム」に基づいています。まさに、現代文明のレジティマシー(正当性)の根本には、自由意志という信念があります。

しかし、この人間の意志が「脳が原理原則に基づいて情報処理をした結果」であるならば、それは一人一人の自由な意志による価値付けではないことになります。

さて、京都大学名誉教授の乾敏郎氏が、「自由エネルギー原理は、生命が熱力学第二法則に抗し、どのようにして生存を維持しているのかという問題から出発する。」と指摘しているように、自由エネルギー原理は、人間の脳の情報処理に留まらず、地球上の全ての生命が生きていくために行う情報処理全般を説明できる原理であるとされています。自由エネルギー原理は、周囲の環境の変化に、体内の化学反応を変化させて対応することで生存を維持するという生命の原理によって、私たちの心も動いていると主張します。そうであるならば、心で生きる人間をどのように理解すべきなのでしょうか?

さて、このテーマを、心の立場からみるとどのように見えるのでしょうか?

私たちは、普段、物質の世界があるということを感じられる=心の中に生きています。洋の東西を問わず、心が経験する感覚(表象)は、物質が存在している実在性とは別の次元=形而上における実在として認識されるべきであるというモチーフは共有されてきました。脳科学や認知科学の領域では、形而上の実在をどのように扱うかは記号接地問題として議論されています。私たちは、心の世界にいて意味や気持ち、感覚によって、心が動いていると感じています。しかし、脳のどこを見ても意味自体は存在せず、そこにあるのは自由エネルギー原理に従って電気回路である神経回路に電流が流れることでなされる情報処理だけでなのです。

注意すべきなのは、心があると信じられるのは、私たちが心があると実感しているからにすぎないということです。現代科学は、「脳という物質の働きに付随して心が動く理由には、全く迫ることができていない」し、これからも解明できるはずがないのです。接近できるのは、そのようになっているという法則だけであるということを見誤るべきではありません。

何らかの物質的な特性を満たした時に形而上的な実在が生まれるのではなく、「予め潜在している形而上的な実在が、ある物質的な特性を満たした存在には、感じられるようになる」という認識の転回が必要なのです。宇宙には、予め形而上的な実在が潜在しているという認識に立った時には、人間は自由意志によってこの世に価値を付与しなければならないという責務から解放されることができます。同時に、意志をもって生きることの偉大さを再確認することができるでしょう。

まさに宇宙における立ち位置を取り戻し、次の文明が屹立するための、立脚点となる議論が展開されます。

みなさま、どうぞご期待ください。

  • とき:4月18日木曜日19時~20時45分
  • 受講法:Zoom(お申込者に開催日が近づきましたらご連絡差し上げます。アーカイブでの視聴も可能です。)
  • 参加費:1000円(会員) 2000円(非会員)

お申し込みは office@hito-kyoiku.com にお申込みください。

このページの上部へ